「国際レベルのインダストリアルハイジニストを目指して」

欧米のインダストリアルハイジニストと

  わが国の労働衛生コンサルタントの相違点

     毛利哲夫(日本労働安全衛生コンサルタント会)

. はじめに

 国際レベルのインダストリアルハイジニスト(IH)を目指すためには、目指す対象とわが国の現状との間に、どのような相違点があるのか、また、その根源がどこにあるのかについて、関係者間における的確な認識の共有が必要だと考えられる。

 今後のあり方を論議するための材料とされることをお願いする。

1. 技術者集団としてのIH

・集団の規模

米国のIHの例

ABIHのCIH認定保有者   6000名

労働衛生工学労働衛生コンサルタント

延べ登録者300名、活動している者50

・資格の認定と保持の要件

先進国間の標準的な認定要件

指定された修士課程修了+5年の実務経験。かつ、5年ごとに研修受講のポイント等による認定の更新。

労働衛生コンサルタント

4年制の理系学部卒+5年の実務経験。経験の不要な場合がある。更新制度なく終身有効。

・養成機関

 米国では54の大学に認定された修士課程がある。国内には、IHの養成を目的とした機関はない。

. 情報流通における相違の例

・関連する図書の件数

amazon.com」「本を探す。」のサイトでタ

イトル検索により得られた図書の件数

Industrial hygiene

90

労働衛生工学

1

 

Industrial health

87

産業保健

9

 

Occupational health

533

労働衛生

13

 

件数の差違に加え、基本となる日本語の教科書が存在しない。

・インターネット上の情報量

 EU-OSHANLMNSCなど数多くのサイトから、膨大な量が提供されている。例えば、MSDSでは100万件以上あるといわれるが、日本語のものは、1万件に達しない。

・作業環境測定結果のデータベース化

 種々の工程、作業における個人ばく露測定結果のデータベース化と共同利用が数カ国、数万件の規模で進められている。

・メーリングリスト・掲示板

 主要な例をつぎに示す。

    名称

加入

情報件

 
 

者数

/

 

Occ-Env-Med-Internet Mail-list

3000

6000

 

IH-List(AIHA/eGroup)

1300

1700

 

UKOH(BIOH/eGroup)

400

1600

 

hscanada(ccohs)

-

1600

 

産業保健メーリン__リスト(産業医科大学)

-

500

 

労働安全衛生コンサルタント会掲示板

-

160

 

・産業保健推進センターの相談件数

平成11年度において、33のセンターで処理した相談件数は、平均すると電話/FAX等を含め、一箇所当たり一日一件に満たない。来所相談は、この一部に限られる。

. 業務起因疾病の統計

 先進諸国の統計との体系的な比較は難しいが、断片的に見ても著しい差違のあることは明かである。例をつぎに示す。

・米国BLS1997年)の報告によると、業務起因の非致死疾病445000件のうち、Chemical burns13000件、皮膚炎は6700件、中毒は5100件である。合計すると25000件となる。

・米国のアスベスト症による死者は、1968年から1995年の間で15000件、ドイツのアスベストによる職業がん補償件数は、1978年から1994年の間で約5000件である。

・国内の化学物質等による休業4日以上の労働災害被災者数は、平成11年において、870である。職業がんによる補償の件数は、毎年10件を超えていない。

 いずれにおいても、桁の違いがある。

. 安全衛生に関する基本的な思想

先進諸国の思想を大胆に集約すれば、

・自己責任によるリスクアセスメント/マネジメント-労働者の参画

competent personの育成と配置

・付加する対策でなく、個別のプロセス、作業の改善による作業環境の向上(安全衛生活動の経営との融合)

should be integrated, not add on. as far as possible

・測定/検査などのモニタリングは、実施すること自体の効果はないので、一律的な実施は排除する。(これらが不要な状態を目指す。)

・国の役割は、強制ではなく、情報提供にある。官民労のpartnership

・災害・疾病によるコストの認識/cost benefit分析。good health is good business 

 米国の職場における死傷コストのNSC推計は、1251億ドル(15兆円)である。

 EU諸国の職業性疾病によるコストは、GDP2.6-3.8%とされている。(日本のGDP 500兆円×3%に、上記の半分を加算すると20兆円を超す。)

. 取り組みの必要な課題

 上に挙げたように、わが国の産業衛生には、先進諸国と著しく異なるところがある。包括的にいうならば、社会が自己対応型か、法規遵守型かの違いによるものだと考える。自己対応型への進化は、歴史の必然であるが、これを推進するためには、政府の基本的な政策、企業の経営ポリシーなどへの戦略的な働きかけが必要である。

 産業衛生専門家は、個々の測定、管理などの技術的問題に対処するばかりでなく、広い視野から戦略的な活動を展開しなければならない。

 国際間の基準

strategy 専門家団体

    国の政策・法制 _ による調整

と推進

  事業者の経営ポリシー

   マネジメントシステム国による指導・監督

 経営者団体

   リスクアセスメント  労働組合

実践  認証機関

     モニタリング

主要な資料

AIHA:A Strategy for Assessing and Managing Occupational Exposures second ed. 1998

ILO:Technical and ethical guidelines for workers' health surveillance 1998

ILO:Code of practice on ambient factors at the workplace 1999(Draft)